アイツはこういう物は好きなんだったか。
 草花だの動物だので華やかにデコレーションされたクリームいっぱいの菓子たちを眺めながら、ロボカイは鋼の指先で顎を撫でた。

 きっかけは何という事でもない。
 他でもないヴェノムの頼みで、足を痛めて遠出が出来なくなったという老人の所までパンを届けに行ったのだ。
 注文通り預けられた荷物を渡し、代金を受け取って後は帰るだけ……というその時に、呼び止められた。何かと思えば、配達の礼として駄賃をくれると言う。
「今日はこんな所まで有り難うね。これで美味しい物でも食べて」
 そういって老人にかけられたその言葉に、ロボカイは喉元のスピーカーから僅かに呻くようなノイズを漏らした。

 ふらふらと店への帰路を歩みながら、彼は一人思いに耽る。
 ワシのこの面を見て"美味しい物でも食べろ"とは、ジョークにしても面白くない。どうせ何も考えずに発した言葉なのだろう。駄目人間はどうも惰性で話す所があるものな。

 駄賃として貰った小銭を手のひらで転がすと、頼りないチャリチャリとした音が響いた。届けたパンたちの代金の半分にも満たない、なんとも微妙な金額だ。
 この小銭をそのままヴェノムにくれてやってもいいが、それではなんとなく癪というもの。これだって一応は、自分で稼いだ金なのだから。

 そう思っている時、ふと商店街の一軒に目が留まった。
 今まで気にした事も無かったが、大通りに面して大衆向けのケーキショップが店を構えている。
 何かいい事があったのだろう。ちょうど箱いっぱいにいろいろなケーキを詰め込んで店を後にしていく親子連れの姿が見えた。
 彼らのように選り取り見取りというわけにはいかないが、一つ買って帰るだけなら今の手持ちでも充分足りそうじゃないか?
 そう思いついたロボカイは、道路に面したショーケースを覗き込んだ。

 動物をモチーフにしたと思われる、子供向けのチョコケーキ。
 パステルカラーのクリームで花畑のように天面を飾られたバタークリームケーキ。
 ケースの目立つ場所に陳列された品々はどれも人気はありそうだが、どことなく派手すぎてしっくりこない。今は何かを祝いたいという訳でもないのだ。
 気を取り直してケースの端からひとつひとつ視点を滑らせていく。
 すると一箇所、華やかな品々の間に挟まる地味な一点にすっとアイカメラが吸い寄せられた。

 ごくごくシンプルな飾り気のないチーズタルト。
一面卵色だけの生地の上に何を彩りつけるでもなく、ただ扇状にカットされた姿がショーケースの中にこじんまりと収まっている。
 そう、今日のワシとアイツには、こういうほうが似合う。

 先程まで小銭を転がしていた手の中に小さな箱を抱えて、ロボカイは歩き出す。
 チーズタルトがひとつだけ入った箱の重量というのは全体の大きさに対してなんともふわふわと軽く、箱そのものが浮かれているようだ。
 こんな物を買って帰って、アイツの驚く顔が今から想像できる。
 君がケーキとは風邪でも引いたのか、などと言ってくるだろうか。
 馬鹿め。ロボは風邪など引かんのだ。


文字を描くれんしゅうです ロボチャンは意地っ張りだからこういう事考えちゃうけどべのむくんは素直に喜んでくれると思う(そこまで書きなさい)(はい……)

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強めの幻覚/パセリ食べるマン
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